取材経緯2024年5月末、高知市のはりまや橋商店街でキッチンスタジオBrew(ブリュー)を運営しながら、食の課題解決に特化した事業を行う株式会社VISIONECTの町田さんと、三菱地所株式会社(以降三菱地所)の広瀬さん、同社でキッチンコーディネーターとして活動されている鬼丸さんと県内の食に関わる生産者さんを訪ねて取材を行いました。三菱地所さんは、2026年竣工予定の東京・神田エリアのシンボルタワーとなる「(仮称)内神田一丁目計画」を進めていて、その中には地域の生産や加工にフォーカスをおいたフロアを計画中とのこと。地域間を越えた新たな事業創出の可能性を探るために各地域に足を運ばれていて、今回の来高となりました。竣工後は、複数階に跨ったスペースの中で社会人同士の交流を生み出す取り組みを行おうとされていますが、その交流は、名刺交換などではなく、深い関係性を育める場を考えており、そのために食を通じた体験に重要性を見出されているとのことでした。食を提供する場合、全国の生産者やこだわりを持って食を提供している人との繋がりが必要になる。日本は47都道府県あり、各地域に伝統的な料理や食材などが存在している。全国に眠っている魅力を掘り起こすと同時に生産者同士のネットワークを生み出し、地域を跨いだコラボレーションを生み出すことを目的とした事業はすでに行われています。三菱地所さんの取り組み東京・大手町には三菱地所さんが運営するキッチンを備えるサードプレイス「3×3LabFuture(さんさんラボ フューチャー)」があり、広瀬さんが発起人として始められた地域の生産者と都心で暮らすひとがつながることで豊かな食や社会をつくる活動「めぐるめくプロジェクト」をはじめ、さまざまな企画が開催されています。この場でキッチンプロデューサーの鬼丸さんは、それぞれの企画に合わせて地域の魅力的な食材を使いビジネスマンに料理を提供されています。「秋田の酒蔵×〇〇」や「ユーグレナさん×〇〇でマヨネーズ」など交流から新しい事業も生まれているそうだ。めぐるめくプロジェクトとは私たちは、これからの食産業や農業・水産業・畜産業を担う地域の生産者や加工者などと、都市で暮らす生活者が相互に理解を深め、交流し合うことで、豊かな食や社会をつくる活動、「めぐるめくプロジェクト」を始動します。広瀬さんの想い三菱地所は本来都市開発を担う企業。そのため、食に関する事業とは縁遠い存在だったそうですが、利用者さんがビル内でのイベントやコミュニティを作り出す様子を見ていると、ハードだけではなく、ソフトも含めた場の提供をするべきではないかと考えるようになったそうです。また、SNSの普及やzoomなどのIOTシステムの普及で、多くの人とつながることは簡単な時代になっている一方、深い関係を築くことが難しい状況にもなっています。そんな時に深いつながりを生み出す1つの方法が食では無いかという想いから全国各地を飛び回っているそうです。高知市長を表敬訪問この日は高知市長桑名龍吾さんを表敬訪問しました。県、市としても高知県の食材の魅力を発信するのは、一次産業の活性化・観光・地域の魅力づくりの視点でも重要なポイントとなっています。まずはじめに三菱地所さんの事業について広瀬さんから説明があり、続いて桑名市長より高知市が目指すビジョンについて共有されました。高知県には食についてこだわりを持った生産者がたくさんいること、高校生がその担い手になって事業を行っている紹介や、高知市中心部から車で20分ほどの土佐山地域には有機栽培されている生姜やゆずなど魅力ある食材があることなどもお話されていました。こうした方々とコラボする事業ができればと言う話も盛り上がり、食に基づいた取り組みを行う地域協働の可能性を探る時間ともなりました。藁屋 WARAYAさん昼食は、藁屋 WARAYAさんというお店に伺いました。町田さん、広瀬さん、鬼丸さんは日替わりの藁屋定食、ブシカレー(宗田節をたっぷり使用したオリジナルカレー)、パスタとバラバラの食事を注文しました。野菜を中心に構成されており野菜をすりおろしたドレッシングなど、細部に野菜の可能性を引き出すこだわりを感じる料理でした。食後にはオーナーさんとの交流やお店に野菜を卸している生産者との交流が行われるなど高知の野菜を活かす料理人の視点、高知のこだわった野菜を生み出す視点両方の方々の思いを掘り起こす時間となりました。合同会社シーベジタブルさん昼食後は、合同会社シーベジタブルさんに伺いました。各分野のスペシャリストが集まり、今では日本各地に拠点を構えながら、さまざまな海藻の研究、生産、加工、さらには新たな海藻の食べ方提案まで行っています。近年、世界中の海から海藻が茂る場所「藻場(もば)」が次々と姿を消しています。魚の産卵・繁栄場所でもある藻場が無くなると、海の生態系に大きな影響が生じてしまうと言われていますが、シーベジタブルさんが行っている海藻の海面栽培や研究は、今後の環境再生を担う可能性を持っているという点でも注目されています。現在シーベジタブルさんが商品化されいている海藻は、「すじ青のり」をはじめ、「はばのり」、「とさかのり」などさまざま。今回はすじ青のりの陸上栽培現場を見学しました。すじ青のりは、種から育てて成長に伴って水槽を大きくしていくとのことで、生産方法は海藻によって異なりますが、それぞれの海藻に応じて育てられ、高知県内外の飲食店、加工用、小売り用商品などさまざまな形で私たちの食卓に届いているそうです。世界に誇るべき海藻食文化を育んできた島国・日本でさえ、海藻そのものの活用方法や海の現状への理解が未だ進んでいるとは言えない状況です。そんな中、シーベジタブルさんは、海藻の食材としての魅力を届けながら海の生態系の豊かさを取り戻すために日々取り組みを続けています。写真提供:合同会社シーベジタブル(私の感想)私自身も社会課題の解決する事業かつ自身の利益も上げる事業を作ることを志しているが、両方を追求することがとても難しいことを痛感しています。シーベジタブルさんの取り組みも社会課題解決の一翼を担う取り組みの1つであるものの市場の中で事業として進める以上、市場に出回る生産物との競争をする必要性が出てきます。こうした中でいかに付加価値を高めるか、思いに基づいた事業を継続するかという2つの葛藤や悩みとそれらを解決するために日々積み上げを行っているのだろうと感じました。海藻を食べると言う文化が強い日本だからこそその可能性や文化を守っていく企業として成長をしたいと考えました。田野屋塩二郎さん最後は、高知大学地域協働学部の学生も合流し、田野町にある世界中からオファーがくる塩の生産者、「田野屋塩二郎」さんの塩田に伺いました。塩二郎さんは約10年前に塩づくりを行うようになりました。それまではサーフショップの運営を東京で行っていたと言います。塩づくりを始めるにあたって、「絶対その界隈の中で1位になる」という心構えがあったことから当時日本一の職人であった師匠となる「吉田猛氏」が高知県にいたことから弟子入りを懇願されたそう。その後2年間修行を経て独立し現在の塩づくりを行うようになったそうです。塩二郎さん曰く、塩づくりに取り組むことは何かを捨てることだそうです。塩二郎さんの場合は、人と関わってワイワイすることやお金稼ぎについて思考を巡らすことをやめて塩づくりに没頭することだったと言います。塩づくりを行う上で、毎日何があっても朝4時には塩田に来て塩を混ぜる(塩を整える)工程を行っていると言う。生産を始めた当時はより塩について理解するために小屋の中に泊まることもあったようです。こうして向き合うことによって、体が自然の方に近づき塩を「整える」という感覚が理解でききるようになるそうです。塩づくりのこだわりと言う点では、塩二郎さんが生産する塩は全て使われる料理を意識してオーダーメイドで作成されているようです。そのため、それに適さない意図で整えられた塩は料理に合わないそうです。徹底的に塩に向き合う事によって作り出されている塩二郎さんの塩だが、生産する環境はとても過酷。周りが塩だらけと言うこともあり水分が奪われると言う環境だけではなく、天日塩を効率的に生み出すためにビニールハウスの中で作業が行われます。そのため大量の汗が出るうえに真夏は蒸発する水分による湿度と高温のため、慣れていない方は5分も作業ができないと言う。加えて海水そものもの火傷をするほど高い温度となるそうで、想像を超える過酷な環境で毎日塩に向き合いながら真摯につくられている職人の技と魂にオファーが絶えないのだなと思いました。(私の感想)塩二郎さんの話から感じたのは、生産よりも人生論の話でした。何か成し遂げたいこと、目指したいものがあればそれに対して「本当に考え抜く」「五感で感じる」と言うように向き合う必要があると言う事をメッセージとして受け取りました。逆に言うと塩二郎さんには譲れない軸がはっきりあり、それ以外の要素に関しては徹底的に寛容なのではないかと言う感覚を感じました。それほどまでにこだわりを持って感覚を研ぎ澄ますからこそ独自の産品が作れると言うことではないだろうか。普段何気なく食べている食事、私生活の行動、勉強1つとっても本来はそこに意図をはぐり巡らすともっと重要なことなどが隠れているのではないかと言うような、食を通じて日々の生活について考えさせられるような問いを持つような経験をしました。<制作クレジット(敬称略)>文:柳原伊吹撮影:黒川貴(株式会社アリガトウデザインコンサルティング)コーディネート・編集:町田美紀(株式会社VISIONECT)<記事を書いたひと>柳原伊吹 高知県香美市出身、高知大学大学院地域協働学専攻2年生。全国の中で新しい取り組みが生まれるづける町に興味を持ち、チャレンジする人がなぜ生まれるかを探求。大学3年生の時にチャレンジする人が生まれる環境を作り出すことを目的としてNPO法人を設立し、活動のいっかんとして商品開発やイベントを実施する。地域の新しい取り組みを知る事を目的として「えひめ・こうち食べる通信」の取材などに同行して思いの持った生産者さんの生き方・食への向き合い方について興味を持っている。2024年3月に大学時代の大学外での学びの価値や機会が多くの大学生に提供したいと思い株式会社Practiceを設立。